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第10号

更新日:6月22日

そこにいる

              西畠 良平

漆黒の闇でありながら

ドロドロと溶け落ちてゆくのが分かる

いつまで どこまで 続くのか

果てしない夜

 

私たちはどこかへ向かうのではなく

といってどこかへ留め置かれるのでもない

今にも崩れそうでいて

堅固でもある この位置

 

「止まない雨 明けない夜」

そして

留まったままで

全速力で走り続ける脚

疲れ果てて

死に損ないながら そこにいる




湖上に

                   土師 尽

わたしのつれあいがきのう亡くなりました

あまりにも突然のことでした

あんなに元気な人が急に死んでしまうとは

それはいけないことです

わたしは悲しみのなか水辺に出て遠くに浮かぶ沖島と

明るく輝く月の投影のゆらぎを見ていました

幼子を抱きながら

すると光芒のたゆたいは

一塊のひとかげとなり水上に像をむすびます

右手を上げ

はるか北の高みに向かい指をさし

大いなる抱擁の微笑みを投げかけながら

消失したのです

わたしは目がよく見える

ふだんは普通にしか見えないふりを

していた

館の遠くの人の顔が見えた

その微笑はとてもおぞましい口角でした

わたしは父に請う

雛ガ岳の山容が思いだされますと

それで父は悟ったようでした

すべてのしきたりを終えて

わたしは子供をつれて帰ることを告げました

なぜか異論は出ませんでした

湖上に浮かんだ船をたよりに

北の岸を目指します

わたしはふと思い出しました

ああ あの人は 

息長帯比売命であったのでは

  



この国 6          三嶋 善之

 

スイミングスクールへ行く

血液の中に脂肪が多いという高脂血症

血液がどろどろ、動脈硬化になる

その前に運動と食事でなおすのだ

善玉、悪玉の気持になって水中に浮かぶ

先生は笑顔で迎えてくれた

前を見てはいけない プールの底を見るようにね

何も考えないで思い切り壁を蹴りなさい

ぼくの身体は魚雷のように発射される

泡を吹きながら猛然と突き進む

来る日も来る日も壁を蹴り

やがてスクール一番と褒められた

しかしある日のこと魚雷は

先発した平泳ぎの女性の群れに追突した

平泳ぎの群れは大混乱

沈没し水を飲む平泳ぎの大群

これからは前をよく見て進みなさいね

先生はぼくに注意した

平泳ぎのグループはすぐ上陸して家に帰ってしまった

ぼくは誰もいない水の中で前方を直視し

ひたすら壁を蹴り続けた

しかし誰もいない練習はいまひとつ

調子が出ないことがわかった

 
 
 

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