第8号
- かもとりごんべえ社
- 1月25日
- 読了時間: 3分
更新日:3月4日
手 紙 三嶋 善之
元気ですか
朝
みずうみのまわりを歩いて
鳥の声を聞き
夕暮れに
まわりの山の形を眺め
初めて訪れた町の
交差点の案内文字が欠けて
「たからまち」が
「からまち」に
なっていても
まったくかまわない
「鮭」の長い旅に感動している
熊やライオンの子育てにくらべれば
人間は薄情なものだ
昨日は写真を写してくれと頼まれたが
シャッターがうまく押せなかった
東大寺と法隆寺は好きだ
春の三井寺はもっと好きだ
しっかりした時間と
つややかな季節の流れを楽しむ
つもりだが
皮膚にステロイドばかり塗って
腰痛で足が冷えて
そういえば吉祥寺オデヲン座
看板もランプが切れて
オデラン座になっていた
笑い転げた仲間も
去っていく
訃報の後には年賀状はこない
新年から長い手紙はこない
インクを吸わせたモンブランで
ぼくはひたすら書く
では お元気で
またどこかで
お会いしましょう
どこかで
お会いできれば の
話ですが
攻めT、守ってくだ斎、そしてN
西畠 良平
私のものと私のものではないもの
私の前からいなくなった
多くの人たち
言葉の観客たち
取り戻そうと考えるな
それらは立ち現われて また消えるものだ
選ぶ軽さと辞めさせるための重さ
軽い気持ちから選ばれた暴君は
そんな簡単には引き下ろせない
本当に私のものであったのか
自由とか正しいとかは
つぶやきをきくとき それは
何かを表わしていることを きっと
何かをちゃんと言い当てているのか
誰かが見分けているのか
誰かが本当に判定しているのか
少しぐらい水が滴って来ても
舟が沈むことにはなるまいと
放っておいたから 沈んでしまった
人を統べるものであれば
すべてのものに寛容であるはずなのに
悪口を言われたことに腹が立った
受け止めが悪いと怒鳴ってやった
誘いにこたえた人は
すべてのことを許すはずなのに
受け入れる事を拒んだのに腹が立った
すべてを壊してしまおうと思った
沈んでしまった舟に乗り合わせた人は
それとともに沈まなくてはいけないのか
せめて浮かび上がる術を考えたい
何かを表わしていることを きっと
何かをちゃんと言い当てているのか
誰かが見分けているのか
誰かが本当に判定しているのか
喰われる
土師 尽
大蛇につかまってしまった
白蛇だ
油断があったのだろう
しかし何を想定すればよかったのかの答えはない
強い力で巻きつけられてしめつけられてこれは覚悟が必要か
邪悪な口吻が大きく開けられ迫ってくる
人間の肉はおいしくないと言うと味はわからぬと
骨伝導のような響きで答えは返ってきた
さあおまえは俺に食われてしまうのだ
日ごろ命を貪り食いしていたおまえに謝罪の機会をあたえてやろう
そのとおりだ
もういいかげん命をいただいていることに倦んでいる申し訳なく
あきらめているよ
しかしおまえの体内は寄生虫だらけじゃないか
虫に食われるのは勘弁してくれ
あつかましいやつだ自分を見直してみろ
不整脈 糖尿病 高血圧 胃薬服薬 耳鼻科で検査 腰痛持ちで睡眠薬が無いと眠れ
ぬ
生きていて何の意味があるのだもう詰んでいるではないか
こうなればその瞬間を認識してやれと気を張りつめた
ところが時間の進みがおそいのだ
時計はないが見ることもできないが世の動きも捉えられぬのだが
まどろみのように事象は停滞し
その概念は失われていった
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