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第4号

更新日:3月9日

    死すには若かりし

              西畠 良平

七夕が過ぎた週の早朝

珍しく携帯の充電が落ちていた

朝食時に気がついて充電を終え

出掛けると 関西にいる次兄から入電

「いいタイミング」と思ったが

電話口の兄の言葉に返す言葉を失った

 

東京の長兄の一人息子 つまりは甥が

今朝亡くなったという

まだ四十代に入ったか入らないか

そんな年代だったはずと思ったが

詳細は定かではないという

 

充電中だった間のショートメールに

午前十時に長兄から伝言が入っていた

「息子死す、詳細は追って」

何か昔の電報での訃報のような短文

 

よほど慌ただしいのか

すぐ長兄の携帯にかけたがなかなか出ない

ようやく繋がった

 

事故ではなく数年前から患っていた脳腫瘍で

手術をするも恢復へ向かわず亡くなった由

春の彼岸に帰省して墓参りしたが

もう言葉が不自由だったので寄らなかった

自宅に安置しているが週末には直葬する

 

長兄はもちろん こちらも気が転倒し

何かできることはないかとしか言えず

直葬に参列するとだけ伝えた

 

取りあえずは上京と

切符を買いに駅に走ったが

葬儀の日時場所も訊いていなかった

 

直接の親子でもない私が

これだけ気が転倒している

死すには若かりし逆縁というのは辛い

本当に辛い

 

遺体を入れた棺の前で

長兄と連れ合い

若すぎる甥の未亡人に向かって

掛けたお悔やみの言葉さえ空しかった

 

死すにはあまりに若すぎる






上なら上

                      土師  尽


後なら後

前なら前

右なら右

左なら左


東なれば東

西なれば西

北なれば北

南なれば南


上を向けば上

下を見おろせば下


実であれば実

虚であっても実

増であれば増

減であっても増


さて

この世では地震は起こる

津波は襲う



空手に関係する詩的な日常(1)            三嶋 善之

ぼくは、伝家の宝刀を半分だけ抜いた経験がある

吉祥寺の南口の居酒屋

橋川文三が好きな友人と酒を飲んでいた

三島由紀夫は夏には白いスーツ姿で銀座の交差点にいたのだが

市ヶ谷で割腹した

漱石の「それから」以降の作品

「門、こころ、明暗」の自我、嫉妬、羨望を肴に議論は燃えさかり

すると近くにいた男が、「包丁を持ってこい」とわめいた。ぼくは店を出てデニムのジャンパーを左腕に巻いた

包丁で刺されたら死ぬかもしれない、首から血が噴き出るだろう 高倉健はいつもそうだった

いくら待っても友人は出てこない。降りかかる火の粉、店の中だとほかの客が迷惑するぜ

するとKさんが、帰ろう帰ろう、すんだすんだ、ただの酔っ払いだったと

板前がさっと包丁をしまったからすばらしいとの話だったが 

私の伝家の宝刀は、ぐるぐる巻きのまま、帰路に就いたのだ。


赤羽の駅裏で飲んでいたら若い人が数人絡んできたが、相手は、さっと回し蹴りのようなものを披露した

ははあこれは、少林寺だと直感した。すると誰かがこれ使えと角材をくれた

おもわず掴んで振り回したら一人が後ろに回った。「タイマンだ」と少林寺が叫んだので1対1になった。

飛んで蹴ってきたが相手は軽かった、だが角材が長すぎてやりにくい 

角材と腕の間から相手の靴が入って、鼻のあたりがぐにゅぐにゅした

角材を止めて上手投げを試みたらうまく相手がひっくり返った

いまだ、走って交番に逃げこんだらタクシーの営業所っだった

しかし配車係のおじさんと交番の警官が笑って立っていた 「助けてくれ殺される」「わはは頑張れ」

追手は営業所まではこなかったので、ぼくはまだ一度も空手を使ったことがないのだ


団体が「型」を披露した。「パッサイ」という。良かった。着物姿で丸坊主の男が黙って飲んでいた。

6人を相手に、大立ち回りをして、相手の目を指で突いたらしい

10月に三島由紀夫の演武を武道館で見た、小柄で写真より弱弱しかった

師走に友人らと飲んだ後、雪の中を一人真夜中に歩いて帰る途中、千葉ナンバーがゆっくり通り過ぎて止まった。

中から男が二人降りて、不意にぼくの胸ぐらを掴んで揺さぶったからコートの一番上のボタンが取れた

「何もしませんからどうぞ許してください」と哀願することに終始したら「酔っ払いだ、行こう」と二人は車に戻った。「お前らあやしいな」ぼくは思わず余計なことを言った。

すると車がバックして僕は反対側に逃げた。材木が並んで立っている製材所に隠れると一人が、正確に追いかけてきた 夢を見ているようだった 「いたぞ」と叫びコートを掴まれもう一人もすぐにやってきた 

吐く息が白くばれたのか足跡が見つかったのか 「いい、俺がやる」「そうか」まるで映画を観ているようだ

そのときぼくは向こうが右手で殴ってきたときは、左で払う 腹を殴ってきたら蹴りを入れる 冷静に考えた

こういうときのために空手を習ったのだから すると相手はのど仏をつかんだから とっさに僕も相手ののど仏をつかんだ 相手も驚いたようだった すると相手は蹴ったからぼくは押し戻した 柔道部なら掴まれたら終わりだがボクシングならパンチが来るはずだ すると「すまなかった、送ってやるから車に乗りなよ」と急に優しくなった

あれれおかしい、どこかへ連れて行くのか 製材所の裏がぼくの家なら、こんな話は無いぞ 送るのはうそだ 

どこか橋の上からほうり投げられて終わりだ それで いやいや結構ですはい といいながら通りに出ると

階段があり、うまく逃げられた

翌日、川口と勝浦の友人に告げると「危なかったな」と本気で心配された

都会はなるべく早く寝て 早く起きること 危ないところに近寄らないこと

前から怖い人が歩いてきたらさっと横に曲がること

それが嫌なら 柔道とボクシングを習って フェンシングもできれば通うことだ





 
 
 

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