第5号
- かもとりごんべえ社
- 2024年8月16日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年8月22日
「つつ」
土師 尽
向かいの建物が壊されて道路になった
すると森田の花火の打ち上げが見通せるようになった
啓開
遠く光が届く
遠く音が来る
九頭竜川の支流に遊びに行くと、そこは村人の子どもたちで賑わっていた
しかし、流れが早くて、岩だらけて泳ぐことができなかった
叔父がそそのかされて川を横切る
首まで浸かっていた
蛮勇という言葉がその時は浮かんだ
大野街道を走る
天の川の数多の星々の光がふりそそぐ
疾走につれ
天空は追いかけてくる
上筒之男
中筒之男
底筒之男
「としはとりたくないねえ」
三嶋 善之
としはとりたくないねえ
老眼鏡探していたら頭の上にあるんだ
信号が赤でも面倒で渡ってしまう
レジで釣銭を待っていたら店員がにらむんだ
まだ金を払っていなかった
孫だと思って手を引いたら よその子で泣かれた
期限切れ寸前の安いものばかり食って
それがすぐに期限が来るから がつがつ食べて
とうとう入れ歯までこわれて
寒くて洟水が止まらないから
コンビニのトイレに座って洟をかむ
あそこは温かい そのあとで尻を拭く
この前 順番間違って大変だった 鼻が一番なのに
餅をもらって食ったら骨がある 自分の差し歯だった
通夜の帰りに傘が二本になって
ストーブの点火スイッチは二度押すと切れるようだ
エアコンで震えていた 冷房だった
眼の検査でCと言ったら笑われた
耳の毛が一本だけ伸びている
安い寿司ばかり狙って食った 隣の人の注文だった
居酒屋で誰かの残りの生ビールを飲んだ 捨てるというから
タバコはやめた ライターが危ない
仏壇の線香もやめた
餅は掃除機で吸うと良いらしいな
お迎えが来ないから 死ねないんだ
困ったな 実は
まだ やり残した仕事がある
遺言書だ
敗戦記念日の夏
西畠 良平
灼熱の夏
紺碧の空 蒼の青に
件の八月十五日が
雲一つない晴天だったと
誰かから聞いたことを思い出した
その日の
真っ赤な夕焼けは どうしても
流れ出た真紅の鮮血に見えてしまう
血なまぐささ
「戦争はいやだ」ということが
単なる血の臭いとか
殺し合うことの無意味さだとかいう
好き嫌いの問題ではないことが
どうしてもどうしても 分からない人がいる
好きずきで語れる問題ではないことを
好き嫌いで語っている「平和さ」を
その脳天気さを意識しなければ
僕たちは何も変わらない
何も変えられない
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