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第3号

更新日:2024年2月19日


 The House of the Riging Sun 西畠 良平

 

Eマイナーで始まる

アメリカ女郎屋の哀しいメロディーが

一日の始まりでも

毎日変わらない つまらない

日課を積み上げる

毎日変わらない 平凡な

仕事に向かう

 

見上げる空には

毎日変わらない 何もない

温かみを感じて フッと微笑んでしまう

 

世間の流れに乗ることなく

ただ ただ 同じことのくり返し

それが変わらないで続いていくことが

私の無上の喜びであった

 

それがいとも簡単に

単なる他人の気まぐれで

歯車が一つ外れると

堅固に見えた日常はガラガラと崩れ

いつまでもあると思えた平安もなくなった

 

それまであった辺りをいくら弄っても

もうそこにはなかった それでも響くのは

同じEマイナーで始まる哀歌ばかり

   

           ―映画「PERFECT DAYS」に






理科  1  三嶋 善之

 

 ぼくは理科が好き 

今日はホルモン

 

誰かが「ホルモン焼」と騒ぐ 

町のはずれに最近開店した

 

「ホルモン焼」とは 

どんな焼きものか 

 

「ホルモン焼」「ホルモン焼」 

静かにせんかおまえら

 

先生は黒板に「ホルモン焼」と書いて 

あららと言って消す

 

 

 

 

理科  2 

 

今日は電気分解 

眼が悪いおばあちゃんのタバコ屋で

 

メッキした十円でタバコを買った生徒がいる

おまえたちのおかげで先生は警察に呼ばれた

 

眼の悪いおばあちゃんをだますなんて 

おまえたちは人間じゃない

 

先生は泣きながら説教した

先生は十円玉にメッキした

 

だが先生はそれで警察に呼ばれたんじゃない 

先生は硬貨を偽造しただけです 

 

しかしおまえたちは悪い

眼の悪いおばあちゃんをだました

 

 

 

理科  3 

 

先生はアルコールを実験台に撒いた 

アルコールが燃えるのであり机は燃えない

 

いいですか点火します 

こげくさいです先生


机が燃えています 

おまえたちあれほど説明したのに

 

このクラスは何も聞いていない 

先生は情けない 

 

火事だ火事だ廊下で誰かが騒ぐ 

先生は消火器を取りに走っていった 

 

どうして机が燃えたのか だれもわからない

机の表面の不燃材が割れていて木肌が出ていた


それが原因らしい

 

 

理科  4 

 

先生はスプーンで竹筒にカーバイトを入れた 

ぽんとかわいい音がする

 

猿にはすこし太い竹を使うらしい 

みんな大喜び


珍しく山奥の生徒がじいさんと遅刻した 

しわくちゃの赤ら顔で嬉しそうだった


一緒に担いできたのは えらく太い竹 

いのしし用だ

 

ボウリングの玉でも飛ぶらしい

ボウリング場ができるらしい


じいさんは孫が大好き

孫の代わりにいつでも死ねるらしい

 

爺さんの指導でカーバイトをコップ一杯

ものすごい轟音でガラス窓が割れ


本館の窓から白い顔の校長が顔を出した 

卒業した山奥の生徒は肥料工場に就職した


生徒は出世してシンガポール工場へ技術指導に行く 

出発の朝じいさんは我慢できず 


死んだ

陸軍では砲兵だったそうな


 

理科  5 

 

クラスは標本室の人体模型が好き

 腸も肺も取外しができる

 

もちろん生殖器も取り出して 

あれれ、ないぞ誰か知らないか

 

先生はなぜか興奮している

あの部分は使い方を誤ると大変なのだ

 

さあ 叱らないから出しなさい 

みんな目を閉じて

 

さあ誰も見ていないから 

こら早く出せ わからんのか


先生の声は強く怖い 

薄目を開けるとみんなが目を開けて

 

かたく目を閉じて怒っている 

先生を見ている

 

 

理科  6

  

先生の親は大東亜戦争で亡くなった

家は昔から土建屋さん

 

日曜は砂利を運んでいる

ダンプに名前が書いてある

 

鉢巻と腹巻

太いズボンをはいて 

 

ダンプで家庭訪問するから

 誰のところに行ったかすぐわかる

 

先生のストライキがあった朝

スト破りに間違われたらしい

 

砂利を積んだまま 

学校へ行ったから

 

 

理科  7

 

 

病気で入院中の村の人に頼まれ

先生は牛を売りに行く

 

いつものダンプに載せて 

牛は割と高く売れたらしい

 

土手を走っていたら横風が吹き

ダンプの窓から

 

一枚また一枚

お金が外へ跳んでいった


あわてて左手でお金を押さえ

ダンプは土手を斜めに降りていき

 

川の中でダンプは止まった 

先生はなんとかお金を拾い集め

 

病院へ駆けつけてお金を渡して

自分の頭にも包帯を巻いてもらった


ドアの角におでこをぶつけて切ったのだ

先生の説教が始まった


お金を助手席に置いてはいけない

置くときは窓を閉めること



理科  8 

 

ぼくは校長室の掃除当番 

雑巾もっとしっかり絞らんか

 

白い顔の校長はバケツに砂を入れて持ってきた

これをぶら下げて廊下に立っていろ

 

なぜだ わからない 

始業のベルが鳴る

 

お前少しは反省したか 

ああん どうだ 


教室へ戻れない泣きそうだ 

すると先生がやってきた 


お前そこで何をやっている 

こんなところでサボってないで


さあ早く教室へこい

この砂はどこに敷くのだ


猫の便所をつくってるのか

僕はただうなずくだけ


  

理科 9

 

理科の先生は正義の味方

まだダンプに乗っている


農道でスピード違反

ダンプに名前があるからすぐばれる


パトカーが手をあげたから

ははあ 何かあったなと


助けてあげようと無理に停まったら

違っていた






コトノテンマツ


                    土師 尽

今日は葬式だった

福井へ帰る

武蔵浦和の乗り換えで埼京線と並行する新幹線を見るのがいつもの楽しみであった

しかしその日は1本も通らない この時間帯はそんなものなのか

大宮に着いて新幹線のりばへ

ところが新幹線は全面運休となっていた 架線事故だった

帰れないと悟ってホテルをとる 荷物をおいてまた駅へ

しかしみどりの窓口には100人の行列が しかも全く動かない

飲み物も持ってなかった それに不確定要素も多いのでホテルに戻った

翌朝 幸い朝食は6時からあり また駅へ 5人ほど並ぶ

この時点で今日の平常運転は聞いていた

若い職員に昨日乗るはずの切符を見せると なにか検索している

「サンダーバードがヒットしませんね」

「それはニュースで運休と言ってましたよ とりあえず金沢まで行きます」そのあと臨時のダイナスターが乗客をスィープしてくれた

首都圏では北陸事情はよくわからないのかな

一寸先は闇が 元旦に続いて身に染みた行き来だった


 
 
 

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