第二次「螺旋」創刊号目次
- かもとりごんべえ社
- 2023年5月20日
- 読了時間: 4分
更新日:3月10日
断固たる決意をもって 西畠良平
この世界 土師 尽
長い夢 三嶋善之
断固たる決意をもって
西畠 良平
二十世紀の《母達》はどこにいるのか。寂しい所、歩いたもののない、歩かれぬ道はどこにあるのか。
現代の基本的テエマが発酵し発芽する暗く温かい深部はどこであろうか。それこそ詩人の座標の《原点》
ではないか。――谷川雁《原点が存在する》より
ぼくはいつも《母》を求めて来たような気がする。《原点》を求めること。それが
ぼくにとって生涯の目標ではないかと思う。すべてのことがその原点に回帰してゆく。
原点は谷川雁だけではなく、ぼくにとってもまた存在する。しかしながら、ぼくの前
には現在のところ、いやこれまで一度も実際には姿を現したことがない。ただ単に実存すると
いったような抽象的存在感だけがあるのだ。
過去に一度だけだが、この実在感は増大し、原点までが視えたような気がしたこと
がある。しかしながら、手を握り合ってきた連帯が孤立したとき、それは一瞬にして
消えてしまった。ぼくの抱く《原点》は、やはり同じ方向のベクトルを指し示している
全的な共同幻想を持つところから始まるのだという気がするのだ。
連帯する総ての人たちよ。ぼくらはぼくらで自由に考えながら、それでいて同じ方向
に顔を向けて歩いていかなくてはいけない。自分の横を覗き見しながらではなく、
自分にとっての正面から目を逸らさずに進んでいて、そして気がつけば同じ方に向けて
歩んでいるようになりたい。そこには、あらゆるものを容認する《母》の回路がある。
それでも、ぼくたちはぼくたちをスポイルするすべての権力に対して立ち向かわなくては
ならない。そして《自由の戦士》としてフロントに立つことを恐れてはならない。
はっきり顔を上げて自分の意思を示しながら、力強く前へ前へと歩みを進めて行く。
それが求められていることのすべてである。
この世界
土師 尽
冷たくて
冷たくもなくて
暖かくて
暖かくもなくて
いつでも壊れやすく
いささかも崩れない
それは
透明でなく
濁らず
遠くでもなく
近くでもなく
それは
存在するものの 不確かさ
存在しないものの 確かさ
長い夢
三嶋 善之
長い夢をみた
口を開けて寝ていると
誰かが口の中に山砂を
小さなスコップで
絶え間なく注ぎ込む
苦しいからやめてくれと言うが
乾いた口から声が出ない
小さな鶏小屋の横は夕焼け
白い羽毛と鶏糞にまみれ
横須賀線の沿線から
誰かがしきりに私を呼ぶ
しかしそれは私の名ではない
板きれの名札はすでにかすれ
故郷の海の海草にもまれ
浮き沈みを繰り返し
白い船腹に打ち付ける
漂う大量のクラゲを追って
風が海岸にたどりついた
鉄の橋と濁流の河
旧い駅があった
青い貨物列車
薄茶の帽子の車掌が腕時計を見た
この列車に乗るのだ
痛くはないですから
帰る場所が無いのならずっと
ここにいてもいいのですよ
ボタンのないシャツなら
そのままでも結構です
さあ早く
車掌は洋服の仕立て職人だった
いつも風呂敷に包んだ大きなかごを
自転車に積み
ハンチングをかぶり
たしかインコを飼っていた
復刊の言葉
詩誌「螺旋」は1979年1月に創刊、1999年9月まで61号まで、20年間刊行された。
その後、24年間冬眠した。
当時、28歳の同人は、48歳まで詩を投稿していたが、24年間も冬ごもりで、今や 72歳になっている。
「螺旋」の草創期、林克人、織田栄、大井順子ら、個性ある書き手も、みるみる亡くなり、
数年前に、吹矢正清も逝ってしまった。
このほど、復刊をという声に、当時の同人に意見を求めた。
詩の心は持っている、まだ書いているが、参加はちょっと、という答が多かった。
数名は迷っているように思えた。
えい、ままよ、西畠良平、土師 尽、三嶋善之がとりあえず、「第二次 螺旋」創刊号を
世に出すことになった。詩は青春の文学である。無手勝流で言葉を振り回していた。
ランボー、エリオット、田村隆一、吉岡実、石原吉郎、草野心平、谷川俊太郎、西脇順三郎、
金子光晴、山之口獏、朔太郎も、光太郎もそれぞれとても良い詩を書いた。
24年ぶりに眠りから覚めた詩人たちよどんな表情になっているか、変貌ぶりが興味深い。
新しい人たちにも参加してほしい。年齢ではない、さあどうするか、しかし誰も来ないだろう。
素直に「老いる」ことが下手な、普通の書き手を待っている。 今は無料で切手もいらぬ。
流行のPCで電子メールで、ただ縦書きを横にしかできない。白内障で、原稿が読めないことと
翌朝には忘れてしまう。不整脈、動脈硬化、足が冷たいがそれは原因ではなく、脳が駄目なのだ。 (念佛馬)
第二次「螺旋」 創刊号
発行年 2023年6月1日 発行
発行所 螺旋舎
福井市文京7丁目2-33
郵便番号 910―0017
Zenyuki1018@Gmail.com
発行人 三嶋 善之
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